選ばれる組織へ~自治体の「人材確保・育成」改革(4)/「エンゲージメント」とは/組織変革は現状把握から/株式会社リンクアンドモチベーション組織人事コンサルタント 依光宏太

 総務省は自治体に対して、職員の「エンゲージメント」の向上を要請している。しかし、多くの自治体の実感としては「よく分からない」というのが本音だろう。
 これまで自治体の組織づくりは民間企業をロールモデルとすべきとお伝えしたが、民間企業はどのように組織づくりをしているのだろうか。今回は多くの民間企業が重視しているエンゲージメントについて、その重要性と活用のポイントをお伝えしたい。

■遅れを取る自治体

 エンゲージメント(Engagement)は、直訳すると「婚約」や「結び付き」といった意味を持つ言葉である。人事・経営の文脈で使われる場合は、従業員の企業に対する「愛着心」や「愛社精神」といった意味になる。当社ではエンゲージメントを「企業と従業員の相互理解・相思相愛度合い」と定義している。
 今、エンゲージメントを重視する民間企業が増えているのは、エンゲージメントが上がることで営業利益率や労働生産性が向上することや、退職率が低下することが明らかになっているからだ。
 大手民間企業でエンゲージメントサーベイを実施している企業は56・5%に上る。一方、自治体を対象にした総務省の調査では、「エンゲージメントの把握・向上は重要」という回答が80%に上っているにもかかわらず、「実際に把握のためにアンケート等、指標化を行っている」という回答は6%と極めて低い水準にある。
 人に投資をすることでその価値や可能性を引き出し、企業価値向上につなげる「人的資本経営」が経営の大きな潮流になっているが、人的資本経営の土台とも言えるのがエンゲージメントだ。
 どれだけ採用や育成に「投資」をしても、エンゲージメントが低い組織では従業員がすぐに離職してしまうなど、「リターン」を得にくくなる。組織づくりは、まずエンゲージメントを高めることから取り組んでいただきたい。

■エンゲージメント/で見える「意識」

 当社が提供しているエンゲージメントサーベイに蓄積された累計1万2650社、509万人のデータを分析した結果、エンゲージメントが高い企業と低い企業では、従業員に以下のような違いがあることが分かった。

 (1)エンゲージメントが高い組織=「ささやけば伝わる組織」
 トップや上司からの指示を待つ受け身の姿勢ではなく、従業員が自ら考え、目標達成に向けて主体的に動いている。
 (2)エンゲージメントが中程度の組織=「打てば響く組織」
 従業員が主体的に行動することは少ないが、トップや上司からの指示があれば、きちんと遂行しようとする。
 (3)エンゲージメントが低い組織=「笛吹けど踊らない組織」
 トップや上司に不満を抱いている従業員が多く、飲み会などでは組織や上司への愚痴が横行している。

 これは、企業を対象としたエンゲージメントサーベイから見えてきた傾向だが、自治体にも同じことが言える。エンゲージメントが低い自治体では、市民サービス向上に向けて新たな政策を提案された際に、「また仕事が増えるのか」「他の部門でやってくれないかな」というようにネガティブな言動が起きやすい。
 一方で、エンゲージメントが高い自治体では、「自分にとっても挑戦機会になる」「確かに市民サービスの向上につながりそうだから挑戦してみよう」というように、職員は自分事としてポジティブに受け止めるはずだ。
 つまり、エンゲージメントの高い組織と低い組織では、個人の「当事者意識」と組織の「実行力」に決定的な差が生まれることになる。実際に自治体組織のエンゲージメントの高さと、住民サービスの満足度の相関がイギリスの研究で証明されている。
 このように、エンゲージメントは選ばれる組織づくりの重要なキーワードで、エンゲージメントの高低によって大きな差が生まれることはお分かりいただけたかと思う。
 ただ、エンゲージメントは診断して状態が分かるだけでは意味がない。次回は、選ばれる組織づくりに向けた「変革」のためのステップを解説する。