前回は、自治体の組織づくりを考えるうえで重要な「公務員離れ」の実態とその原因について解説した。今回は「選ばれる」組織に変わるための考え方と自治体に共通する組織症例についてお伝えする。
■人に投資しにくい組織
なぜ、自治体は選ばれなくなってしまったのか。前回お伝えした通り、労働市場の状況が変わった中で、そもそも人への投資姿勢に、民間企業と大きな差があるという状況が大きな要因となっている。
ある自治体に人への投資を進められない理由を聞いたところ、「税金を財源にしている以上、できるだけ住民のために使わなければいけない」という声が聞かれた。つまり、自治体には「税金は市民のために使うもの」という考えがベースにあり、職員の採用・育成にかけるお金は最小限に抑えられがちなのである。
こうして人材への投資は、「今までもやっていないし、他の自治体もやっていないから、やる必要がない」という認識が当たり前となり、いつの間にか民間企業との人材投資額の差が拡大したのだ。厳しい言い方をすれば、何もしなくても優秀な人材が集まってきた状況に安心しきっていた結果だといえよう。
近年、こうした状況を変えるための取り組みが注目されているが、推進できている自治体はまだまだ少ない。
■ライバルは民間企業
筆者自身、一住民として「良い住民サービス」の提供を願っているが、良い住民サービスは良い人材の知恵から生まれてくる。実際に自治体職員のエンゲージメント(働きがい、愛着)の高さと、住民サービスの満足度の相関がイギリスの研究で証明されている。
住民から「選ばれる」自治体になるためにも、エンゲージメントなどへの投資の考え方は大きく変える必要がある。具体的には、民間企業が採用競合になっていることを認識すべきだ。優秀な人材は近隣の自治体ではなく、民間企業に流れているのが実情である。競合相手となる民間企業のように、積極的に人へ投資しなければ、自治体はますます「選ばれない」組織になってしまう。
では、どうすれば良いか。重要なのは、他の自治体ではなく、積極的に人に投資している民間企業をロールモデルに組織づくりを行うことだ。
自治体は何か施策を考える際、隣の自治体の取り組みをまねしたり、人口規模が似た自治体の事例集を作ったり、先進的な取り組みをしている自治体を視察したりすることが多い。しかし、自治体組織と民間企業に大きな差が生まれている以上、そうしたところで、採用競合となった民間企業に勝ち、「選ばれる」状態になることは難しい。
■「ガラパゴス化」する組織
前述したように、自治体においては「事例主義」「横並び主義」「前例主義」といった風土が根強いが、こうした「ガラパゴス化」した風土が組織変革の障壁となっているといえる。当社が提供しているエンゲージメントサーベイの結果を見てみると、どこの自治体でも共通する「組織症例」が見られた。
例えば、職員の傾向として顕著だったのが『意義目的不足症』である。これは目の前の業務をただ作業的にこなすだけで、その先にある意義や目的を理解していないため、自分が何の役に立っているのか分からず、モチベーションが低下する症例だ。

また、『ワーク・ライフ・バランス偏重症』に陥っている自治体職員も多い。「働きやすさ」を重視して自治体に入庁したが、「働きがい」が醸成されていないために、忙しくなるとモチベーションが低下する症例である。
その他、多くの自治体職員に共通して見られる傾向として『ハラスメント恐怖症』や『相互信頼不足性』があった。
ガラパゴス化した状態から脱却し、民間企業を参照点としながら選ばれるための組織変革に取り組んでいただくために、次回はこれらの症例の乗り越え方をお伝えする。
