教育の現場

タイトル



7月3日付(4755号)   「教育の現場」INDEX
●自らの力で未来へ
 企業と連携し、実践力と創造性を

都立蔵前工業高校


 新世紀を迎え、価値観の転換を迫られる中、かつて多くの有為の人材を産業界に送り出した工業高校が今また、クローズアップされてきている。

 その先頭に立つ都立蔵前工業高校では、あらゆるチャンスをとらえ、自らの力で未来へ羽ばたける人材を育てようと、教職員一丸となって取り組んでいる。

 五月からは文部科学省の「研究開発学校指定校」となり、二〇〇三年度までの三年間、「技術革新に対応した工業高等学校生徒の実践力と創造性の育成に関する研究開発―企業と連携したデュアルシステムの教育を通して―」を実施していくことになった。

 「指導要領などの枠に捕らわれず、次の時代のあるべき学校の姿を研究していこうというものなんです」と淺岡廣一校長。

 目標の一つが実践力の育成。日本の教育のプロセスは、決められたカリキュラムで勉強し、良い高校から良い大学へ、そして一流企業へというものだった。

 「何のために勉強するのかが、受験のためになっていて、大学に入ると勉強しない風潮になっている。上級学校に行けば行くほど興味・関心が広がり、将来を見通して集中的に勉強するようになるのが本来の姿のはず。外国では何々をやりたいから大学へと目的意識がはっきりしている。日本でも十五、六歳という一番社会に関心が向く時期に、自分の方向が決められるようなシステムをということで、二年生を企業に送り込むことを考えたんです」

 デュアルシステムというこの職業教育システムは、ドイツで発祥。見習い訓練生として、週に三〜四日は企業で専門家から実務的な教育を受け、週一〜二日は職業学校で普通教育と専門教育の理論を学ぶもの。

 「日本の企業は世界の最先端を行く、オリンピックでは金メダリストだ。感性の柔らかい時に、そうしたトップランナーの姿を側で見ることで大きな刺激を受けるはずです。そこで受けた強い興味・関心を、人生を選ぶきっかけにして欲しい。社会を知る機会がなく、自分自身を見詰める機会もなければ、目的を持つことが難しいですよね」

 クリアすべき問題も多いが、学内では主任を中心に研究開発推進委員会を組織し、学識者からなる運営指導委員会については現在、人選を進めている。

 ただ、蔵前工業では八年前からのインターンシップ(就業体験)推進校としての実績がある。夏休みの一週間を企業に送っているが「帰って来ると目の色が変わっています」と校長。

 二つ目の目標は創造性の育成。製造業では、大量生産でものを作る部分は安い労働力のアジア諸国が担う方向へとビジネスモデルが変化してきている。

 「日本に求められるのは研究開発や検査、メンテナンスなどだが、機材がハイテク・精密化し、単なるものづくりの技術でなく、より高度な知識が必要。そこでは独自性やクリエイティブな能力がより求められ、教育もその方向へシフトしていく必要があるんです」

 伝統校といっても二次募集をした時期もあったが、本当に蔵前を目指す生徒を入学させたいと、近隣の中学二百十校を回り、意欲ある生徒を集めた結果、今では「断るのが申し訳ないくらい」と、レベルも非常に上がっている。とにかく、夏休み期間でも一年を通して、毎週木曜日には学校案内を欠かさないのだ。

 入学した生徒からのアンケートでも、「編集したでしょうと言われるが、全部そのままです」と瀧上文雄教頭は笑うが、「まだ分からない」「女の子が少ない」という言葉はあるものの否定的な感想はなく、専門が学べ、授業がおもしろいという声が多い。

 持てる教育力を最大限に生かし、そうした生徒たちの夢をかなえたいと学校。それにこたえて、生徒も存分にこたえてくれている。

 昨年度は、大企業が社運をかけて取り組む「技能五輪全国大会」に、高校生として始めて、機械科の二人の二年生がメカトロ部門で入賞を果たした。「今年は優勝を狙うんだと張り切っていますよ」

 また、都立工業高校二十六校の研究発表大会でも最優秀賞を受賞している。
 国の認定する資格を取って、自信を持って社会に巣立って欲しいと、国家資格の取得にも熱心だ。生徒が自主的に取り組む一方、教師も朝七時から指導に当たり、一人で五、六種類を取る者もいるなど、合格率・合格数とも都内で一位の成績を挙げている。

 「人格教育も大事だが、生きる力はまさに職業能力を持つことです。人間は目標を持つことで、すごいパワーを発揮するんです。マニュアル人間はいらない。新しい発想で独自性を出していかないとロボット社会になってしまう。ロボットよりは安いからと、低賃金で使われたら生きがいにならないし、社会の活性化にもつながりません」

 「良いことにはどんどん手を挙げる」と教頭。海外修学旅行の試行第一号となることも決まり、来年五月には、都立高校生として始めてオーストラリアへの就学旅行を体験する。

 「就職率も一〇〇%で、社会的なニーズは高いのだが、都民がそれに気付いていない。立派な設備もあり勿体ないですね。目的もなく進学し、フリーターになる者も多いが、もっと工業高校の意義を知ってもらうようにしたいんです」
↑TOPへ戻る

「教育の現場」INDEXへ


HomeTopic News紙面構成購読案内出版物案内会社概要


都政新報Web Pressに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。 Copyright 2001 Tosei Shimpo. All rights reserved.