都政新報
 
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心のカルテ 精神科医療はいま(上)/救急搬送


▲東京ルールが適用される事案には、薬物・アルコール中毒や精神疾患患者など、対応に苦慮するケースも多い(写真と本文は関係ありません)=都内で
  

心のカルテ転院先確保に4時間超/強制入院に依存も


 「もう無理だから、探すのを打ち切って下さい。ウチで診ます」

 今年7月のある夜、20歳代の男性を一時収容した病院から、転院先を探していた救急隊に、半ば諦めの電話が入った。

 患者は、2日前から歩けないほど意識が朦朧とした状態が続いていた。アルコール依存症で、糖尿病も併発していたという。

 一時収容先も実は、救急隊が搬送先を探し始めてから9件目で何とか見つかった病院だった。容態が安定した午後10時頃、精神疾患や脱水に対応できる転院先を探したが、見つからない。4時間以上かけて40近い数の病院に連絡した末での判断だった。

 精神科の救急医療が産科など一般診療科と異なるのは、本人に命の危険がなくても、自殺したり他人を傷つけたりする恐れがある点だ。そのため、一般診療科の救急搬送と同じように、症状の軽重を判断する通常ルートのほかに、警察などが精神保健福祉法に基づいて強制的に収容する緊急入院のルートがある=メモ参照。


  「措置入院」は重症の精神障害者に適用されるため、外来・入院医療の方が多くなるのが普通だ。しかし、都では、夜間・休日にはこの傾向が真逆になる。相談件数自体は年間1万件以上に上るが、実績は外来93件、入院351件に対し、緊急措置入院は786件に上る(いずれも08年度)。

 背景には事件の多さもあるが、通常のベッド数が極端に不足する上、双方のルートの連携ができていない点が大きい。休日・夜間の措置入院用の病床は都立病院で計16床を確保しているが、二次医療は(社)東京精神科病院協会の協力で3床のみ。措置では入院費も無料で、「人権」という問題に目をつむれば、確実に医療にはたどりつけるため、措置入院に依存している形だ。「今の救急搬送体制は、手薄な夜をしのぐ仕組みになっている」との指摘もある。

精神科

 精神科診療所にとっても、入院が必要な患者の転院先を探すことが難しい。そのため、搬送体制が夜間の対応に切り替わる午後5時になった瞬間、都の精神科医療情報センターに家族らが電話連絡し、搬送先を確保してもらうケースがあるという。ただでさえ少ない夜間のベッド数を、さらに圧迫している。

 一般診療科と精神科の間に溝がある中、各地域で双方を結びつけようと、話し合いの場を設ける取り組みも始まっている。西東京市内の民間の精神科病院は、近隣の総合病院とペアで診療に当たる取り組みを始めた。日中にできるだけ患者の「流れ」を意識したルート作りを念頭に置いたものだ。

 都でも09年度、区東北部と南多摩保健医療圏で、精神科の診療所と病院、さらに一般診療科の連携を強化するモデル事業を開始。緊急の患者紹介・受け入れ調整のための仕組みも検討する方針だ。 


 ◇  ◇  ◇

 「受け入れ拒否」「たらい回し」。都内の周産期センターで08年、脳内出血の妊婦の受け入れが難航し、死亡する事案が発生したときに、メディアをにぎわせた言葉だ。しかし今、産科や小児科に限らず、精神科でもこうした事案が頻発。精神科の受診歴があるだけで敬遠され、搬送は困難を極めている。都の地方精神保健福祉審議会は、11年度の最終答申に向けた折り返し地点に入った。行政が抱える課題を追う。 (このシリーズは全3回です)


<MEMO >
 精神医療の入院制度 精神障害者は病状を自覚していなかったり、被害妄想などの症状で治療の必要性が理解できなかったりするため、本人の意思による入院のほかに、精神保健福祉法に基づき、強制的に入院させる制度がある。「すぐに入院させなければ自傷他害の恐れがある」と指定医2人の診察が一致した場合、知事権限で入院させる「措置入院」などがそれに当たる。警察が保健所に通報して行うのが一般的。そのほか、医療・保護のため、指定医が「入院が必要」と診断した場合、保護者の同意で入院させられる「医療保護入院」などがある。


 

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