都政新報
 
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【多摩】走り出した事業仕分け(上)


  専門的視点か、市民目線か

「問題意識やビジョンが大切」


 昨年、民主党政権のもとで行われ、注目を集めた国の事業仕分け。多摩地域では、昨年までに町田市など数市が実施しているほか、行政評価に市民など第三者の視点を入れる自治体も多い。また今年度は、新たに調布、多摩、稲城、東久留米市も、公開による事業仕分けを実施する。だが、一口に「事業仕分け」と言っても、その手法や思惑は自治体によって異なる。来年度予算に反映させるため、各自治体で始まった事業仕分けを追った。

 「そういうことではなくて、市として目標を設定できないのかと聞いているんですが」――。職員の説明をさえぎるように指摘するコーディネーターの声に、50人以上の市民が傍聴する会場は緊張感に包まれた。7月24日に稲城市で行われた事業仕分けの一場面だ。
 仕分け対象は公民館事業について。仕分け人が「実績を数値で示すなど、達成状況をクリアにしなければならない。金と人をつぎ込むなら、成果のとらえ方を工夫する必要がある」と指摘したのに対し、職員が「施設のキャパシティーが限られる中、来館者数や利用者数では測れない」などと返答。かみ合わない議論を制したものだった。
さらに、仕分け人からは「各担当課も独自に講座を行っており、無駄な二重投資にも見える」「事務に800万円の人件費がかかることをどう考えているか」など、容赦ない指摘が次々と飛び、職員が返答に窮する場面も見られた。
 約30分の質疑の後、仕分け人が出した結論は、「市が継続して事業を実施するが、民間活用などを拡大すべき」というもの。仕分け人の一人は「市として、どういう方向性で事業を行っていくのか、市民への説明がほしい」と注文を付けた。
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 そもそも、一口に「事業仕分け」と言っても、国のように政策シンクタンクの「構想日本」や有識者、他の自治体職員らが中心となって事業を洗い出すものから、市が行う行政評価に市民が参加するものなどケース・バイ・ケースだ。これらをすべて合わせると、多摩26市では今年度、八王子、青梅、調布、小平、日野、東久留米、武蔵村山、多摩、稲城の9市が「事業仕分け」を実施予定、もしくは実施済みとなっている。
 このほか羽村市は、年度内の実施を含めて現在検討中。また国立市は、6月議会で事業仕分け経費を補正予算に計上したが否決された。
 今年度「事業仕分け」を実施する9自治体のうち、国のやり方に最も近いのが稲城市だろう。「構想日本」に委託して、1日で21事業の仕分けを実施。厳しい指摘で事業に切り込む手法は、国の仕分けを彷彿とさせた。
 「06年度から事務事業評価制度も導入し、事業効果をチェックしてきたが、外部的な視点ではどうなのか、しっかりと評価してもらう場を作るべきと判断した」。稲城市の石川良一市長は、導入の理由をそう説明する。
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 事業仕分けを行うどの自治体も、実施理由に「外部の視点での検証」を上げるが、そのウェイトの置き方には違いも見られる。例えば、仕分け人に市民を採用する点は、どの自治体も共通しており、稲城市も、4人の仕分け人のうち1人は市民委員だ。しかし中心は専門家で、専門的な視点からの事業検証の意味合いが強いと言える。
 これと対照的なのが、「市民中心の仕分け」だろう。例えば日野市は、外部の評価導入の第一の目的を「市民の関心を高めること」と位置づける。04年に行政評価を導入し、05年度から公募で選ばれた市民が評価者に加わった。
 市民参加のメリットについて、市担当者は「税金の使い方や受けているサービスを知ってもらい、自ら可否を判断できる機会になる」と話す。市民委員は毎年公募するので、評価経験者がどんどん増えることになり、行政やまちづくりへの市民参画につなげる意図もある。
 他方、同じく市民中心で外部評価を行う武蔵村山市は、日野市とは逆に、同じ人が継続して外部委員となっている。「実質的な事業仕分けと同じ」と担当者が言うように、事業の洗い出しに重きを置いた。意見も活発に出され、外部委員からも、「会を重ねるごとにやり方やポイントが分かってきた」という声もあるという。いわば「市民目線のプロ」による仕分けとも言える。
 専門的視点か、市民目線か。その比重や仕分け人の選定は、事業仕分けの目的で変わることになる。
国の事業仕分け第二段に民間仕分け人として参加し、調布市が行った「事務事業側面評価」の仕分け人にもなった首都大学東京都市教養学部の奥真美教授は、事業仕分けを実施する際のポイントとして「単なるパフォーマンスではなく、何のために評価し、このため外部の評価者に参加してもらって結果をどう活用するかの視点が大切。仕分けはツールの一つで、それをどう活用するのかを明確にする必要がある。市民へのアピールだけでなく、首長やスタッフが、問題意識やビジョンを持って臨むことが必要だ」と指摘する。
 

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