都政新報
 
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【多摩】あきる野市 始動! 森林レンジャー 森づくりの最前線で(下)

 
  森のスペシャリスト集結
活動推進に向け、周知も課題

 誤解を恐れずに言えば、レンジャーの4人は自然のことがいつも頭から離れない「自然オタク」である。山の中での昼食時も、近くにいる虫や植物が気になってしょうがない。
 「あれ、これサシバじゃない?」。食事中、紅一点の加瀨澤恭子さん(33)が、おもむろに話し出す。遠くで「ピックイー」と鳴く声を聞きつけたのだ。他の隊員も食事はそっちのけで、双眼鏡やカメラを手に遠方の山を注視する。サシバは体長50㌢程のタカ科の鳥。そう珍しくはないが、この辺りで見るのは初めてだという。
 「沖縄など南西諸島まで飛んで、冬を越すんです」と説明してくれた加瀨澤さんは、環境省のエコインストラクター研修を修了後、沖縄でのエコツアーガイドの経験を持つ。その時、小学生たちに話していたのが、「身近な自然に目を向けてほしい」と言うこと。しかし、都内出身の自分が身近な自然を何も知らないことに気づかされ、レンジャー応募した。
 1日中、山登りする過酷な男職場だが、「オフィスで働くより、こんな職場の方が向いている」と加瀨澤さん。様々な専門領域を持つ人に囲まれる職場で日々、刺激を得ているという。
 鳥類に最も詳しいのが、佐々木優也さん(30)だ。サシバにカメラを向けるが、遠すぎて写真に収められないと悔しがった。
 秋田県の白神山地近くで育ったため、山はなじみ深いが、大学では心理学を学んだ異色の経歴も持つ。そんな佐々木さんが、あきる野市の森に感じる魅力が生活との近さだという。
 以前、自然環境研究センターのスタッフとして、北海道にある環境省の出先機関で働いた経験もあるが、樹海のような奥深い北海道の森に比べ、市街地に隣接する都内の森は持つ意味も異なる。「手つかずの自然も大切だが、あきる野市の森は、生活の中で人と自然がかかわりあっている。共存できるよう環境整備ができれば」と話す。
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 わずか4人ながら、様々な分野の専門家が集まった森林レンジャーは、70人を超す応募者から選ばれた精鋭。そんな彼らには国籍の壁もない。
 「このカジカは病気ですね」。草陰に潜んでいた5㌢程のカエルを目ざとく見つけたのは、流暢な日本語を話すスペイン人のパブロ・アパリシオさん(30)。背中をよく見るとイボのようなものがある。先日、別の森で見た同種のカエルも同じ症状だった。「病気が広がっているのかも」と心配顔だ。
 森の中の動植物の生息状況を調査するのもレンジャーの重要な仕事の一つ。パブロさんは以前勤めていた地図情報システム(GIS)制作会社での技術も生かし、見つけた動物を写真に収め、マッピングしていく。
 日本人の奥さんとの結婚を機に5年前から日本に住む。地理学と環境学が専門だが、両生類にも詳しく、トウキョウサンショウウオの生態観測のため、以前から市内の森を訪れていたという。自らのテーマと合致するレンジャーは理想的な仕事だ。「ただ、山道を10㌔歩いた後、三鷹の自宅まで帰るのは辛いですが」と笑った。
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 国や都のレンジャーは、森林の安全管理のほか、利用マナーの普及啓発、関係機関との連携による密猟の監視などに活動の重きを置く。あきる野市の森林レンジャーは、その他にも動植物の生息調査や、新たな地域資源の掘り起こし、景観整備など、活動範囲は広い。5月に活動をスタートし、イベントを開くなど滑り出しは順調だが、環境の森推進室の櫻澤さんは「まだまだPRが足りない」と話す。
 レンジャーの活動は今後、「恵みの森構想」実現への個別具体の活動に移っていく。地域と連携した計画の策定や、実際の作業など、住民とともに活動する場面も増える。着実に遂行するためにも、内外へのレンジャーの周知は欠かせない。
 また、レンジャーの任期は来年3月末で、その後は未定という。「レンジャーは活動を通じて土地に浸透し、ノウハウも蓄積する。本当に活躍してもらうのは今後で、事業を継続できるよう手立てを講じることも大切」と櫻澤さん。
 市町村レベルでは、観光地の要員としてレンジャーを置く事例はあるが、森林のパトロール等を行う本格的なレンジャーは初で注目度も高い。癒し効果やCO2の削減など、森や里山の機能・価値が再評価・再認識されつつある中、あきる野市の取り組みが成果を出し、活動を広げることができるのか。全国からも熱い視線が注がれている。

 

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