都政新報
 
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宙に浮く移転~豊洲市場の開場延期(7)/崩れたパズル/遠のく環2の全線開通

 
   地中に杭を打ち込み、重機で地表の土をならす。築地市場の地下を通る環状2号線や換気所の一部の基礎工事だ。小池知事が豊洲新市場の開場延期を表明する前に契約した工事は今も続行している。
 秋葉原駅近くの神田佐久間町―有明の全長約14キロの環2は、築地市場の地下トンネル部分(約100メートル)だけが未着工。年内に築地市場を解体した跡地の一部に片側1車線の暫定道路を完成させ、豊洲までを一時的に開通させる計画だった。だが、移転延期でトンネル本体や排ガスの換気所工事の発注時期のめどが立たない事態となっている。
 予定通り11月7日に豊洲市場が開場した場合でも、地下トンネルや換気所の整備には4年弱かかるため、完成時期は東京五輪の開催直前になる予定だったが、移転延期の影響で環2の全線開通は大会後にずれ込む恐れも出てきた。都第一建設事務所環二工事課は「元々、(東京五輪まで間に合わせる)合理的な工法を用いているので、工期短縮の余地は少ない」と厳しい見通しを示す。
■軟着陸
 環2は一部区間が「バイパス構造」になっている。虎ノ門~晴海5丁目区間(約3・2キロ)は信号がなく、混雑していなければ、ノンストップで運転できるからだ。
 こうした道路構造は、都心部と臨海部のアクセス改善策として慢性的に渋滞している晴海通りの交通量緩和が狙いだ。だが、環2の暫定道路すら開通できなければ、渋滞は解消されないままとなる。
 晴海通りの交通量は年々増加している。2010年度の国土交通省の道路交通センサスでは、江東区豊洲駅前の交差点(晴海通り)の交通量が12時間当たり2万1887台で、05年度と比べて約2割アップ。江東区土木部は「その後も感覚的に増えているように思える。豊洲駅前の交差点に流入しないよう都に求めてきた。環2が完成しないと晴海通りに負荷がかかり、地域交通に影響が出てくる」と懸念する。
 また、移転延期により、中央区には晴海や勝どき両地区の住民から、19年度内にBRTの運行開始が可能なのかとの不安の声が寄せられているという。BRTは環2をメーンルートに設定しており、都心部へのアクセスが良くなる。BRTの事業主である都都市整備局は、水面下で警察などとBRTの停留所の設置などで協議を進めている。
 築地市場が解体されなければ、東京五輪への影響は必至だ。五輪組織委員会の森喜朗会長が9月26日、BSのテレビ番組で、築地市場の跡地は五輪の駐車場(乗用車とバスの計5千台)に使用されると打ち明けた。「都が決めた計画」と強調した森会長は「環状2号は大事だが、なければないで(五輪は)やらなければいけないが、駐車場だけはどこでもいいというものではない」と述べ、築地以外に候補地はないと言及した。
 森会長の発言を念頭に置いたように、小池知事は2日後の28日の所信表明で、「オリンピック・パラリンピックの成功に影響させない対応」など今後の措置も判断するという考えを示した。市場の移転時期を早期に判断するとの発言とも受け取れる。
 だが、ある都幹部は「環2や駐車場の問題は氷山の一角でしかない」と指摘する。
 例えば、選手村につながる環2は、立候補ファイルで選手村とオリンピックスタジアムパーク、IOCホテル間の移動に使用すると明記されている。環2にオリンピックレーンを設置することで、選手村とスタジアムを10分で結び、既存の道路を使用するよりも15分間短縮できるという。ルートが変更になれば、単に選手や関係者の移動時間だけでなく、玉突きで警備計画や観客の動線などに影響が出ることになる。
 都幹部は「市場移転はパズルのピースの一つ。一つなくなれば五輪計画全体に影響が及ぶ」と懸念する。
 また、移転時期は豊洲新市場の安全性が確認された後になるが、知事が安全宣言すれば全てが解決するわけではない。移転に向けた関係者の合意形成は長い時間と労力をかけて進めてきた。庁内からは「都の信頼が失墜した今、再び移転に向けて合意形成が図れるのか」との声も上がる。移転延期を決断した知事には今後、様々な課題を着地させる責任が課せられる。  =おわり
 

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