都政新報
 
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宙に浮く移転~豊洲市場の開場延期(5)/「業者セカンド」/対応の遅さにいら立ち

 
  「都の処理の仕方が全くなっていなかった。盛り土工事のやり方を変えるなら、安全性を確認し、説明してから行うことが当たり前だ」
 豊洲新市場の主要施設下に盛り土が施工されていなかった実態を知らされていなかった築地市場協会の伊藤裕康会長は、9月13日の卸売市場審議会後の報道陣の取材で、語気を強めて都の対応を批判した。そのいら立ちが形になったのは、伊藤会長ら3人が3日後の16日に都庁を訪れ、岸本良一中央卸売市場長に手渡した抗議文だ。
 盛り土問題が明らかにされた後、業者は混乱し、出荷者や小売業者、消費者の不信感が払(ふっ)拭で(しょく )きない事態に急変した。こうした現状に抗議した伊藤会長に、岸本市場長は「よく分かりました」とだけ述べ、抗議文を受け取った。
 業界団体や関連事業者の印鑑が並んだ抗議文を提出した後、伊藤会長は築地市場の移転延期に伴い、冷蔵庫などリース契約をしている業者の補償など業界団体と中央卸売市場をつなぐ窓口を設置するよう要望したが、市場からは現時点で返答がないという。伊藤会長は「今の中央卸売市場の体制では駄目。責任の持てる人を出してほしいのだが」と都の対応を問題視した。
■風評被害の懸念
 伊藤会長と共に抗議文を提出した築地東京青果物商業協同組合の泉未紀夫理事長は「都が業者の方に顔を向けてほしい」と語り、業者を第一に考える「業者ファースト」を求めた。
 都庁内では「職員が特別顧問からの指示に追われて、業者への対応が遅れているのだろう」と「業者セカンド」になっているとの声が上がる。
 「安全で水道水レベル」。専門家会議の平田健正座長は9月24日、豊洲新市場の地下空間にたまっていた水にお墨付きを与えたが、「豊洲新市場が危ないのではないか」という風評は絶えないようだ。
 小売業からは豊洲新市場への拒否反応がある。泉理事長は、学校や高齢者施設向けの配食会社などから「今の状態で豊洲新市場に移転したら、取り引きはしない」と打ち明けられた。地下空間のたまり水は決して野菜の洗浄には使わないことなどを説明すると、「あの水を使うと思っていた」と誤解している業者もあったという。
 東日本大震災に伴う福島原発事故から5年以上が経過するが、福島産の食材は今でも放射能に汚染されているとの風評被害に悩まされている。土壌が汚染していると報じられる豊洲に移転すれば、同様の状況になり得るとの懸念もある。
 小池知事が市場の移転延期を表明し、盛り土問題が明らかになった後、移転推進派は「気抜けの状態」という。その矢先、豊洲新市場の地下水から基準値を超えるベンゼンなどが3カ所で検出された。専門家の知見や知事の判断が出るまでは業界団体は静観する構えだ。
 基準値を超えたベンゼンなどの検出で移転時期が延長される事態になれば、移転推進派の心情にも影響しかねない。伊藤会長は「早めに移転時期を決めないと、推進派の気持ちが離れていく。11月7日の豊洲市場の開場に向けて結集してここまで来たが、改めて移転の機運を盛り上げないといけないのは大変」と懸念する。知事が安全宣言を出した場合、移転に向けた再結集が課題になるが、知事がその牽引(けんいん)役に求められている。
 

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