都政新報
 
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291万票の衝撃~小池都政が始動(中)/発言の余波/着地点見えぬ豊洲移転

 
  

 11月7日の開場まで3カ月を切った豊洲市場。施設が既に完成し、開場を待つばかりだったが、小池新知事の誕生で予断を許さない状況となっている。
 発端は、都知事選の最中に行った築地市場近くでの街頭演説だ。小池氏は市場関係者の納得を得るため、豊洲市場の移転を「一歩立ち止まるべき」と論陣を張った。この主張を聞いただけでは、小池氏の真意はつかみにくい。
 だが、選挙中に全国紙で豊洲市場の移転の賛否を問われた小池氏は「延期」と明確に答えている。就任後、5日の記者会見では移転について「仮定の話には答えられない」とトーンダウンしたが、立ち止まる理由として土壌の安全性や道路を挟んで豊洲市場の青果棟と水産卸売場棟が分かれている利便性などへの理解を得る必要があるとの主張は、移転延期派と同じ論調だ。
 市場関係者には、小池知事の誕生に歓迎と動揺の相反する反応が見られる。移転延期派の水産仲卸業者は豊洲市場の安全性に関して、「建物は建っているが、何があっても問題ないと完全な安全宣言を出すべき」と訴え、「開場ありきで本当に良いのか検討してほしい」と小池知事に求めた。
 一方、移転賛成派の水産物卸売業者は「延期すれば大混乱になる。都民に生鮮食品を届ける役割が果たせなくなるので、市場にどれだけ責任を持ってくれるのか。延期の影響は小池知事に説明して納得してもらうしかない」と反論する。都庁内では「納得がいくかどうかは市場関係者の心情次第だ」との指摘があるように、関係者全員の理解を得るのは極めて難しい状況といえる。

■認識不足
 小池氏は選挙期間中の演説で、豊洲市場の移転スケジュールに触れている。この中で「8月になると、卸売市場法に基づいて農水大臣に移転許可を申請する」と述べているが、正式に8月に申請することは決まっていない。また、小池氏は10月になると、健康被害の恐れがない「形質変更時要届け出区域」に指定されている豊洲市場での区域解除が行われると説明したが、区域解除は土壌中に自然由来する鉛やヒ素などの有害物質を全て除去する必要があり、豊洲市場の開場まで実施される計画はない。
 仮に区域解除する場合、豊洲市場の施設を取り壊すことなく、除去方法を検討することになるため、移転延期は不可避となる。除去費用は莫大(ばくだい)になる見通しで、小池知事が公約に掲げた「行財政改革」にも逆行しかねない。
 ほかにも、小池知事の選挙期間中の発言には認識不足とも取れる部分がある。待機児童解消策でも選挙期間中、「都内にある空き家を活用して小規模保育所を設置する」と訴え、都が取り組んでいないと受け取れるような発言を繰り返していたが、こうした取り組みは既に実施している。
 説明不足もあった。知事が「都政改革本部」に設置する情報公開調査チームに関して、小池知事は2011年度の情報公開ランキングを用いて、都がワースト3位だったことから、「開かれた都政にはまだまだ遠い」と発言。しかし、自民党幹部は「何が不透明なのか明らかにしてもらえないか」と不快感を表すように、具体的な話はなかった。
 小池知事は3日、築地市場の現状や今後の経過などのレクチャーを受けた後、報道陣の取材に応じ「まだまだよく理解しなければならない」と認識不足を認めたが、豊洲移転を「立ち止まって考えたい」と従来の考えを示した。豊洲移転では、結論が何も出ていないのは確かだ。都政の混乱回避や信頼回復が求められる一方で、知事自身の発言が波紋を広げる中、どう着地点を探していくのか、新知事の手腕が試されている。


 

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