都政新報
 
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TOKYO2020五輪への航海図(4)/混迷の聖地(4)/危うく時代錯誤の象徴に

 
   イラク出身の建築家ザハ・ハディド氏は、「未完の女王」の異名を取る。前衛的な設計で、計画倒れに終わる例も少なくないからだ。
 ザハ氏は2012年ロンドン五輪でも競技会場を設計した。水泳会場の「アクアティクス・センター」は、曲線を描く白い屋根が特徴的だ。しかし建設は一筋縄ではいかず、建設費は当初見積もりの3倍以上に当たる2億6900万ポンド(約516億円)に膨らんだ。
 過去のメーンスタジアムを見ると、北京の国家体育場(鳥の巣)は約430億円、ロンドンのスタジアムは約650億円。ロンドンはメーンの競技場では冒険せず、大会後に規模を8万人から5万4千人に縮小する現実的な選択をしている。
 一方、東京の新国立競技場は当初の約1300億円から約2520億円に膨張。日本スポーツ振興センター(JSC)は消費税率や建設資材・労務費の高騰などを要因として挙げたが、元凶はその構造にある。ザハ案では約370メートルのキールアーチ2本を架けることになり、JSCは「高度な技術を持つファブリケーター(製造業者)が日本で数社しかなく、競争性が働かない」と説明した。
 維持費などの年間支出は40億3400万円。JSCは3800万円の黒字という大甘の収支見込みを発表したが、改築後50年間で必要な改修費は1046億円に上り、「負の遺産」になるのは明らかだった。ザハ事務所は7月末に至って、「低価格の競技場を提案する用意もあった」と主張し始めているから驚きである。
 工事の規模も極めて大きい。文部科学省が7月14日、参議院内閣・文教科学の連合審査会で明らかにしたところでは、アーチと屋根部分の鉄骨の重量は計約2万トンと東京タワー5本分に相当するという。基礎工事による建設発生土は約78万立方メートルで、10~11トンダンプ車に換算して12・8万~14・2万台、1日延べ600~900台が行き交う計算だった。
 安藤忠雄氏は「現代日本の建築技術の粋を尽くすような難工事であり、チャレンジ」と評したが、白紙撤回しなければ開発型の五輪と見まごう時代錯誤の象徴になったに違いない。
 

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