都政新報
 
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成果と焦りと~舛添知事就任から1年(2)/都民への利益、明確に/舛添銘柄

 
   就任当初と比べればスケジュールには余裕が出てきたが、それでもブリーフィングや面会など日程は分刻みだ。週1~2回しか登庁しなかった石原元知事とは大違い。近い幹部の元には週末の夜にもメールが来るという。「知事は職員のワーク・ライフ・バランスを口にするが、周辺は舛添知事が帰ってから忙しくなるようだ」とささやかれる。
 知事が昨年4月以降、力を入れてきたのが、現場視察だ。都立病院やしごとセンター、多摩ニュータウン─。視察が実際にどのように長期ビジョンや予算査定に生かされたかは判然としないが、知事は1月の庁議では「100カ所以上の現場を視察し、その場で専門家の意見も聞きながら、様々な構想を練ってきた」と話した。
■福祉・雇用政策/に光
 来年度予算案では、保育士・介護職員のキャリアアップや非正規雇用対策を知事の意思で盛り込んだ。都庁内では「石原・猪瀬時代に軽視されてきた高齢者福祉や非正規雇用対策に力を入れている」という声が上がる。
 同じく光が当たってこなかった人権にも関心が強い。昨年、在日韓国人らに対するヘイトスピーチが問題化した際、厳しく臨む考えを表明。「舛添知事のハラは条例(による規制)だった」と見る幹部もいる。
 そのほか、東京ウィメンズプラザ(渋谷区)では女性の活躍に貢献した企業・団体の表彰式に出席し、中国人留学生などの宿舎「太田記念館」(杉並区)で座談会に臨むなどした。石原元知事や都議会の一部保守派が目くじらを立て、「隠してきた」類いの政策だが、都幹部は「知事が代わって表に出せるようになった」と打ち明ける。総じて石原・猪瀬時代に陰に隠れた施策に光が当たったという印象は強い。
 一方、都庁内には「都市基盤や産業振興など、本人に興味が見られない分野のブレーンを役人だけに頼っているようで心配」という声もある。
 石原都政はハード面で、3環状道路や羽田空港の国際化などで成果を上げた。しかし舛添知事がその「遺産」を生かして、超少子高齢・人口減少社会を見据えてどのような都市像を描くかは、まだ見えてこない。
■見えにくいメリ/ット
 そうした中で、知事が成果を出そうと躍起なのが、都市外交や水素社会の実現、国際金融拠点の形成、創薬など、「舛添銘柄」とも言える取り組みだ。
 このうち水素社会は、知事が「五輪のレガシー」に位置付けるなど、民間企業の期待は大きい。3日に開催されたシンポジウムでは「選手村で水素エネルギーを実験的に活用する」と意欲を見せ
た。
 ただ、都庁内での受け止めは様々だ。「行政が支援することで民間の技術開発が進展し、新しい都市のスタイルになる」という期待がある一方、「未知数の部分が大きい。普及しない場合の撤退方法も考えるべき」と心配する声も出ている。
 都市外交では昨年、北京やソウル、ロンドン、ベルリン、トムスク(ロシア)などを訪問。ソウルでは朴槿恵大統領と会い、大きく報道されるなど、満足げだった。
 しかし、都議会自民党はこれをあえて代表質問で取り上げ、「都市外交は友好交流と都市問題解決など実務的なことに徹するべき。それほど優先順位が高いとは思えない」と牽(けん)制(せい)している。
 都庁内で特に批判が強いのが公金の株式運用で、「都はそれほどカネに困っているわけではない。失敗した場合に責任が取れるのか」と懸念する声が上がる。
 これらに共通するのは「都民にどういうメリットがあるのか」が見えにくい点だ。都幹部の一人は「外交戦略と言っても、ただ知事が外遊して東京をPRするだけになっている」と手厳しい。「金融拠点の形成や創薬もいい話に聞こえるが、東京の経済にどのくらいの広がりがあるのか。都民への直接的な効果がないと理解しにくい」
 今まで目立たなかった政策に光が当たったのはある意味、舛添知事の功績だ。半面、金融や都市外交を「知事のおもちゃ」と見る向きも多く、知事の言う「世界一の都市」が何かという疑問は依然、解消されていない。
 知事就任からまだ1年。都政が担う行政課題は何十年も積み上げてきたものだから、知事が代わったからといって一朝一夕に解決できるわけではない。そのために焦って「成果」を求め、目先のネタに飛びついてしまう─。そんな落とし穴にはまっていなければいいのだが。
 

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