都政新報
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都政漂流~新知事の課題(3)/100万キロワット発電所/実現可能性乏しく空砲に

 
   「空に鉄砲撃っても仕方ない」─脱原発を巡る猪瀬前知事の口癖だ。「大事なのは、ファクトを積み重ねること」と言うように、あからさまに「脱原発」を唱えることはしないが、脱原発を支持する都民の間では、猪瀬氏の100万キロワットの天然ガス発電所建設構想や老朽火力発電所のリプレース(更新)、東京電力改革などの取り組みに対しては評価が高い。
 新潟県の柏崎刈羽原発も、福島県の福島第一・第二原発も、既に停止しており、震災当初から事実上の「脱原発」が実現している東京で、猪瀬氏のアプローチが現実的に見えたのは確かだ。
 ただ、今になって振り返れば、大勢の報道陣を引き連れた視察やプロジェクトチーム(PT)にどんな成果があって、何が実現したのか、都の幹部でもはっきり答えられる人は少ない。
■アドバルーン
 2011年3月11日の東日本大震災で東京電力福島第一原発が事故を起こし、首都圏では計画停電が行われるようになった。当時、副知事だった猪瀬氏は、その年の5月に川崎市にある天然ガス火力発電所を視察。電力供給量がピークを迎える同年夏に、自らが座長の「天然ガス発電所PT」を発足させた。
 猪瀬氏は「都が100万キロワット級の電力会社を経営するわけではないが、規制する側が積極的に推進するメッセージを産業界に出すことが大事だ」と鼻息が荒かった。
 PTは12年5月、臨海部に三つの候補地を絞り込み、建設費は最小で1250億円、維持管理費は350億円程度という検討結果をまとめた。さらに、3カ所の候補地について、水質や動植物などの自然環境調査を行うところまでは、とんとん拍子に話は進んだ。
 だが、この発電所構想は、当初からアドバルーン的性格が強かった。猪瀬氏自身が「モデルを示すことが、今後の東電改革に影響を及ぼす」と述べているように、実現可能性を横に置いたもので、仮に実現しても、都庁内では「第2の新銀行東京に成りかねない」という危惧が強かった。
 12年11月、都知事選で猪瀬氏が掲げた公約に、「100万キロワット天然ガス発電所の建設」は姿を消していた。その代わり、公約の先頭に、「東京湾でフル稼働している老朽火力発電所を最新鋭の天然ガス火力に置き換える」と掲げられていた。
 13年9月、第3回定例都議会の代表質問では、自民党の吉原修幹事長が「発電所候補地の中には、現在、スポーツ競技場であったり、住宅地が近接しているところがあるほか、五輪の競技予定地も近接しており、開催計画との整合性もある。さらには、送電線の敷設がシールド工法などによって8キロも必要なところがあるなど、建設には様々な課題がある」と指摘。「必要性と実現可能性には大いに疑問がある」と見直しを求めた。
 猪瀬知事は「首都圏では、この夏も懸念された電力不足に陥っておらず、電力事情が震災直後とは大きく異なっている」と事実上、見直しに応じ、故障による運転停止リスクがある老朽火力発電所のリプレース促進に全力を挙げる考えを示した。
 この問題の根本には、「電力の安定供給」が都の仕事なのかという混乱がある。事実、東京電力は、都がわざわざ天然ガス発電所を造らずとも、夏のピーク時の電力量を確保できている。ただ、東京湾岸の老朽火力発電所が停止するリスクがあるというだけだ。
 老朽火力発電所のリプレースは、そもそも都が提言したものではなく、東京電力が震災後に策定した「特別事業計画」の中に最初から盛り込んでいたものだ。問題は、その財源やスピード感でしかなかった。逆に都が過剰に介入することで、本来、東京電力に課せられているはずの供給責任があいまいに見えてくる。
 都も出資した官民連携インフラファンドを活用した10万キロワット級発電所が今年8月に稼働するが、東京電力が所有する老朽火力発電所(稼働から35年以上)の供給量は、合計で1660万キロワットにも達し、とてもカバーできるスケールではない。
■都の仕事ではない
 電力の安定供給は、国の主導により電力会社が責任を持って解決すべき問題だ。そして、実際に今、電力は足りている。結局、震災による計画停電を経験したとしても、都に出来たことは、いつの日か来るべき次の電力不足に備え、非常時の節電方策の検討や非常用電源の確保、新電力の参入、地産地消の電力育成などを地道に進めていくしかなかったのだ。
 首都圏の100万キロワット級天然ガス発電所構想は元々、電力不足から始まった計画だが、それとは関係なく、いつの間にか東京の電力は満たされている。
 発想は確かに素晴らしかった。だが、冷静にプロセスを振り返れば、都にとっては過大な大風呂敷だった。都庁が多大な労力を割いても、実現可能性を証明するファクトは集められず、この構想自体が「脱原発」と同様、掛け声だけの空砲だったことは否めない。(14年1月14日掲載)
 

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