都政新報
 
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都政漂流~新知事の課題(2)/福祉費1兆円時代/「言葉遊び」超える施策を

 
  ■奇抜なラベル
 「福祉関係の予算が初めて1兆円の大台に乗った。費用対効果の高い政策、発想力できちんとターゲットを当てて政策展開する」
 昨年1月の予算原案の発表会見で猪瀬知事はそう胸を張った。新年度が始まると「東京スマート保育」「シェアハウス」「小中高一貫教育校」「サービス付き高齢者住宅」「東京就活スタイル」─独特のネーミングの施策を打ち出し、それらをまとめるように、「構造的福祉」という言葉を使い始めた。
 昨年9月の都議会第3回定例会の所信表明で、猪瀬氏は「人間の生活は縦割りでない。福祉の問題も単体ではなく、『構造』として捉えていかなければ有効な対策を打つことは出来ない」と説明し、少子高齢化と人口減少という中長期的な問題に取り組む姿勢を強調した。それに先立ち、安藤副知事をトップとするプロジェクトチームで検討し、12月中に発表予定だった「新たな長期ビジョン」を新年度予算に反映させる方針だったが、具体的な施策や「構造」の意味には疑問符が付いたままだった。
 都議会からは、辞任直前の4定まで、代表・一般質問で「構造的福祉」の中身が問われたが、明快な答えは最後まで聞かれなかった。
 質問に立った都議の1人は「結局は言葉遊びだ。各々の施策も奇抜な『ラベル』を貼って目新しさを強調するが、以前から都がやっていたものばかりだ」と冷ややかに振り返る。
■派手な動きで
 わずか1年の都政運営で猪瀬氏の福祉施策を評価することは難しい。打ち上げ花火のような施策や単なるラベル貼りでしかないとの批判がある一方、本人自身の関心の強弱や形はどうであれ、地道な行政に結果的に注目を集めたことで、一定の実利はあったとの見方がある。その一つが、副知事時代から手掛けた高齢者の住まい問題だ。
 09年3月に群馬県渋川市の高齢者施設「たまゆら」で発生した火災で、23区から生活保護を受けながら入所していた高齢者10人が死亡した事故を受け、猪瀬氏を座長とする「少子高齢時代にふさわしい新たな『すまい』実現プロジェクトチーム」を発足。14年度をめどに▽ケア付き住宅(高齢者向け優良賃貸住宅)約6千戸▽都型ケアハウス(後の都市型軽費老人ホーム)2400人分▽シルバー交番─の三つの「東京モデル」を柱とした方針をまとめた。
 同年11月にPT報告書をまとめた後、猪瀬氏は特別区長会の役員会に自ら赴き、「都内の高齢者が近県へ出ていかざるを得ない状況がある。都の枠の中で高齢者の住まいを維持する仕組みを考えた」と協力を呼び掛け、各区長と意見交換するなど、パフォーマンス含みながら積極的に動いた。あくまで事故を受けた一連の行動の上、ケア付き住宅やケアハウス自体は都で従来から取り組んできた施策だが、耳目を集めたのは猪瀬氏の動きだ。
 知事就任後の13年度予算編成では、ケア付きすまい1万戸以上の整備を加速するために予算を重点配分し、当初の予定よりも普及が進んでいなかった都市型軽費老人ホームについても「新たな処方箋(せん)を考えたい」と仕切り直す姿勢を示したが、五輪招致に没頭したこともあり、かつてのような「積極性」は見えずに終わった。
 「猪瀬都政は、石原さんの時代に比べて福祉に前向き姿勢になっていくだろう」。辞任騒動の少し前、ある都幹部はこう予測していた。2人のパーソナリティーの違いもあるが、何よりも財政再建が喫緊の課題だった石原都政時代と違い、安定的な財政基盤という「遺産」があったからだ。
 猪瀬氏は1兆円超の予算を「中身の濃い福祉を増やした」とアピールしていたが、実態は政策判断の余地のない社会保障関連経費の自然増によるものだ。そして今後もその伸びは加速する。
 新知事には、人口減少社会時代を見据えた、真の福祉的構造改革が求められている。(14年1月10日掲載)
 

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