都政新報
 
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脱・お役所仕事へ~公共サービス研究会の青写真(上)/外部委託の限界超える/自治体業務の受け皿検討   

 
   民間に出来ないことを、出来るようにして民間へ─。自治体の窓口業務や国民健康保険、戸籍事務、総務、会計出納など「専門定型業務」を外部委託する新たなスキームについて、足立区が発足させた「日本公共サービス研究会」が検討している。自治体業務の外部化を中心とする行革に限界が見え始め、「官製ワーキングプア」などの指摘も出る中、同研究会はどのような青写真を描いているのか。

 今年1月、足立区役所。人材派遣会社やシステム事業者の担当者の説明を、多数の自治体の行革・企画担当者らが真剣な表情で聞き入っていた。
 テーマは、行政事務における外部人材の活用や業務委託の現状。企業からは一例として、複数の教育・研究機関に付随する総務・経理部門などを一括して受託しているスキームが紹介された。
 一定のローテーションで社員を派遣し、複数の職場でほぼ同様の事務をこなす内容だ。「事務」とは言っても、高度で専門的な内容が多く、関係者によると「前職の実務経験を生かした業界内転職が多い」という。
 公的機関で言えば、公立学校の庶務や児童・生徒の支援、公立病院の庶務・医事などで、一定のローテーションで社員を派遣する形で民間委託するイメージになる。
 非正規雇用を助長しかねないため、このスキームをそのまま採用することは出来ないが、日本公共サービス研究会が想定するのも、複数の自治体で共通する「専門定型業務」について共通のプラットフォームを構築し、新規に採用した正規職員が担う仕組みだ。
 民間の実績を見ると、雇用側としては非常勤で職員を採用した場合、3~5年ごとに入れ替えが発生し、ノウハウの蓄積やサービスの質の維持に課題がある。一方、労働者は安定的な就業を求めており、ミスマッチが生じる。これらを解決するには、「より多くの施設で取り組むほど訴求力が上がり、雇用主は優良な人材を確保でき、働き手は雇用の不安を解消できる」という。
行革の伸びしろ
 同研究会によると、自治体の外部委託は、(1)若年者の雇用支援(2)電話交換・案内(3)戸籍住民課などの窓口・案内(4)税務処理─など「単純定型業務」が中心になる。
 しかし、こうした業務の委託はほとんどが着手済みで、「伸びしろ」は小さい。年収100万~300万円程度の非正規雇用化が進み、効率化の余地がないのが実情だ。
 例えば、足立区では1982年に約5800人いた区職員を2011年は約3500人にまで削減した。ただ、その大部分は公用車の運転や清掃、学校給食の調理などの現業系の職員で、更なる外部化は難しいという。
 これに対し、同研究会がターゲットにしているのは、従来は聖域だった「専門定型業務」。年収800万円程度の常勤雇用者が多く、大幅な効率化が期待できるという。戸籍、出張所窓口や入札・契約、国民健康保険・介護保険などがそれに当たる。
 葛飾区が国民年金で、渋谷区が戸籍事務で窓口をそれぞれ委託するなど、23区でも実績はあるが少数派だ。
 こうした分野で委託が進まないのは、既に非常勤職員を採用していたり、現場監督者を配置するだけの委託範囲の切り出しが進まなかったりして、経費削減の効果が薄いことなどが挙げられる。
 日本公共サービス研究会は、受け皿となるプラットフォームを作り、業務スキルを移転して外部化を進めることが課題になる。
業務改善の哲学
 同研究会の肝は、これまで請け負う主体がいなかった行政の仕事を、民間が受託できるようコーディネートすることにある。
 「委託する業務が把握できておらず、ブラックボックス化するのではないか」「偽装請負が生じるのでは」。外部化に踏み切るには絶えず、こうした懸念がつきまとう。PFIや指定管理者制度で言われるように、請負業者の指導や委託業務の可視化は不可欠だ。
 その上で、「従来のお役所仕事をそのまま委託しても意味はない」と足立区の定野司総務部長は強調する。
 「最も重要な問題は、民間企業が持つ経営ノウハウ、業務改善の哲学が行政に
思うように浸透しないこと。お役所仕事が変わらないまま委託を進めれば、その監督や調整に人員を割くことになり、コストパフォーマンスはかえって悪化する」
 自治体の財政が厳しくなる中、いかに住民満足度を落とさず、地域や住民の特性に合わせた公共サービスを創ることが出来るか。「自治業界」の法制・財政論にとどまらず、現場の実態に即した改革が求められる。


MEMO
 日本公共サービス研究会 戸籍や国民健康保険、会計出納など、専門性はあるものの定型処理を繰り返す「専門定型業務」について、外部委託の手法を自治体連携で検討・構築するため2012年7月に発足。第1回会合では約150の自治体のほか、総務省、内閣府の職員も出席した。現在、当面の外部化の対象として、国保、会計・出納事務を取り上げ、民間企業を交えて実現性を検討している。
 

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